2003年12月25日(木) 東奥日報 特集

スクランブル

INDEX▼

  
■ 画家田中一村の全容見渡す/奄美復帰50周年を機に企画

 鹿児島県・奄美大島の自然を鮮やかに描いた日本画家、田中一村(一九〇八−七七年)の初公開作品を百点近く集めた全国巡回展が、来年一月から七月にかけて開かれる。大作「奄美の杜(もり)」シリーズなどに関心が集中した八〇−九〇年代の一村ブームを経て、新たな目で生涯と画業を見渡す好機となりそうだ。

 ▽初公開も約百点

 一村は栃木県に生まれ、東京美術学校(現・東京芸大)を中退。三十代後半、生涯に一度の公募展入選を果たす。五十歳で単身、奄美大島へ渡り亡くなるまでの十九年間、つむぎ工場で生計を立て、理想とする絵画に没頭した。生前、個展は一度も実現しなかった。

 ブームに火が付いたのは没後。NHKの美術番組や、八五年から約十年にわたった二度の全国巡回展で脚光を浴びた。今回は三度目の巡回展。奄美諸島が五三年十二月二十五日に米軍政下から復帰して五十周年という節目を機に企画された。

 田中一村記念美術館(奄美大島)所蔵の著名な大作に加え、一村が恩人らに贈った色紙など知られざる小品の数々も。出品総数百四十四点中、九十七点は初めて全国のファンの目に触れる。

 八歳のころの白梅図、二十歳前後でついたての表裏に描いたボタンと竹、江戸期の青木木米らの作風を巧みに模した南画、奄美時代初期…。新たな作品群は、一村の確かな力量を再認識させる。

 ▽等身大の素顔を

 これらの作品を各地で発掘し展覧会を企画したNHK出版の大矢鞆音さんは、一村の生涯を取材した成果を雑誌「美術の窓」に連載中。従来の一村伝は、中央画壇に背を向けた孤高ぶりを強調するが、大矢さんは一村が日展に二度出品していた新事実をつかむなど、むしろ画家としてごく自然な素顔に目を向ける。

 五三年の奄美復帰と、一村の五八年の奄美移住とのほのかな関連も、大矢さんは指摘する。千葉市に住んでいた一村は、おいが通う中学に、復帰直後の奄美から少女が転校してきたと知り、おいを通じてしきりに島の生活事情を聞き出そうとしたという。「移住の五年も前から奄美を強く意識していたのでしょう」

 今回の巡回展について大矢さんは「従来の展示で欠落しがちだった千葉時代を補うなど、全生涯の各年代に作品を位置付け、およその流れをつかめる構成にした。孤高の生きざまを神格化せず、一村をトータルに、等身大の絵描きとして見てほしい」と話している。

 展覧会の問い合わせは、田中一村展実行委員会(NHK出版内)、電話03(3780)3337。




HOME